古くて新しい電荷密度波というパズルを解く
- タイトル:NbSe2の電荷密度波形成におけるほとんど空の電子状態の働き
- 論 文:Physical Review Letters 101, 226406 (2008)
- 著 者:D.W.Shen, Y.Zhang, L.X.Yang, J.Wei, H.W.Ou, J.K.Dong, B.P.Xie, C.He, J.F.Zhao, M.Arita, K.Shimada, H.Namatame, M.Taniguchi, J.Shi, and D.L.Feng
- 機 関:復旦大学(中国)、広島大学放射光科学研究センター、 武漢大学大学院(中国)
NbSe2は、雲母やグラファイトのような層状にへき開する物質で、2次元的な電気伝導性をもつ物質である。NbSe2は低次元伝導体で現象される電荷密度波(CDW)という現象が初めて観測された物質でもある。また、CDW 意外にも超伝導などの性質も示し、多くの研究者の興味を引きつけてきた。
D.W.Shen 等の研究グループは、この物質のCDW発生機構において、これまで1次元伝導体で通説となっているフェルミ面のネスティングという考え方だけでは、理解することはできないとして、電子のエネルギーと運動量を広い範囲で観測して、CDW発生の前後における電子構造の詳細な変化を角度分解光電子分光により調べた。
その結果、NbSe2内の電子が互いに複雑に相互しあっている様子が浮き彫りにされた。ネスティングの条件を完全に満足する部分以外においても、系全体のエネルギーを最低にする方向で電子や結晶格子が変化していることが明確に示された。
これにより、通常のCDW転移のシナリオでは説明の難しかった原因が明らかにされ、30年続けられたNbSe2における大きな疑問が解消した。
本研究の成果は、高温超伝導体をはじめとする2次元電子系のもつ電子−格子相互作用により引き起こされるCDW不安定性を考える上での重要なヒントとなり、2次元電子系を扱う広い研究分野に貢献したと言える。