HiSORセミナー
円偏光発光(CPL)分光法の黎明期、現状、将来展望
日時 2017年4月21日 (金) 14:00~16:00
場所 放射光科学研究センター 2階 セミナー室
講師 藤木 道也
(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)
1896年フランスの物理学者Aimé Cottonは、不斉な有機金属錯体(K+Cr(III)(D- tartrate2–)2水溶液のORDスペクトルの符号が波長によって反転し、CDスペクトル強度が波長によって大きく変化することを見いだした。いつしかこれらの現象をCotton効果と呼ばれるようになった。Cotton効果の発見以来今日に至るまでCD分光法とORD分光法は、基底状態における不斉構造を議論する有効な分光法として確立している。CD分光法とORD分光法は室温付近において熱的に励起されたいくつかの動的な不斉種を、フランクーコンドン原理に従って垂直励起された不斉な基底状態(S0-state)を議論する有効な分光法といえる。それに対して近年円偏光発光(CPL)分光法が注目を集めている。CPL分光法は、不斉分子が光学バンドギャップ(Sn-state (n=1,2,3...))以上に光励起され振動回転運動によって構造緩和した最低励起状態(S1-state)からの発光現象として不斉励起状態(S1-state)を議論する分光法である。最初のCPL分光研究は、1948年ロシアのB. N. Samoilovによって酢酸ウラニル結晶について報告された。続く1960年代から1970年代にかけてオランダのL.J.A Oosterhoff–H.P.J.M. Dekkers一派ならびに米国のF.S.Richardson一派らによって高精度のCPL分光装置の開発と平行して、発光性不斉分子のCPL分光/CD分光理論や解析に関する基礎が築かれた。直近の数年間は応用の観点から、pi-pi*、n-pi*、d-d、f-f 遷移などの紫外-可視-近赤外域に電子吸収/発光帯を有する不斉分子、不斉高分子、不斉超分子、薄膜、凝集体(コロイド)を用いて、CPL信号/CD信号の完全円偏光状態の理論的極限値(g値=±2.0)を実現するための研究が非常に盛んになっている。本セミナーでは、我々がこれまでに進めてきたCPL研究に関する知見や種々のアプローチを、対応するCDスペクトルやORDスペクトルと対比させながら紹介したい。さらに、Cottonの時代からの疑問であった円偏光源を用いた絶対不斉発生の波長反転現象についても言及したい。
1) P. Laur, Chapt 1, In Comprehensive Chiroptical Spectroscopy, N. Berova, P. L. Polavarapu, K. Nakanishi, R.W. Woody (Eds), Vol. 2 (Wiley, 2012).
2) S. Abbate, E. Castigloni et al. Chirality, 28, 696-707 (2016).
3) S. de la Moya et al., Chem. Eur. J., 21, 13488-13500 (2015).
4) 藤木道也, 高分子論文集, 74, 114-133 (2017).
問合せ先 松尾光一(放射光科学研究センター)