セミナー・シンポジウム

第 18 回ビーム物理・HiSOR 合同セミナー

強度変調型永久六極磁石を用いたパルス中性子ビーム集光用磁気レンズの開発及びその応用研究
Development and application of a magnetic neutron lens with modulating permanent magnet sextupole

日時 2016年4月20日 (水) 15:00~16:00
場所 放射光科学研究センター 2階 セミナー室
講師 山田 雅子
(Paul Scherrer Institut)

 中性子線は高い透過能、水素などの軽元素への高い感度、磁気構造探査能などの有用な性質から、高分子や生体分子から超伝導体内の磁束量子といった広い分野で物質構造及びダイナミクスの解明に非常に有用なプローブである。しかしながら、中性子は核反応を用いて発生するために概してビームエミッタンスが悪く、さらに電気的に中性であるためその制御が荷電粒子に比べて難しい。これらの理由から従来散漫的な中性子線が用いられてきたが、サンプル位置でのビーム強度の弱さが常に課題であった。直接的な解決策として、到達可能な中性子ビーム強度の上限値に達したと言われている核分裂原子炉から、ピーク強度がそれを凌駕し、さらに飛行時間法(Time of Flight, ToF)により無駄なくエネルギー分光が可能な核破砕中性子源へと移行しつつある。一方、発生した中性子を制御して利用効率を向上するため、多種多様な中性子光学素子が開発されている。

 中性子は磁気能率を持ち、磁場勾配が軸からの距離に比例する六極磁場中ではビーム軸に沿って振動する。この運動を制御すると中性子ビーム集束に利用することができる。我々は電磁石に比べて強力かつコンパクトな六極永久磁石をベースに、同軸状の二重リング構造として入れ子になった固定内輪の周りで外輪を回転させることにより磁場強度の変調を可能にし、広いエネルギー(波長λ)分散をもつワイドバンドのパルスビームを色収差なく集束できるレンズ「強度変調型永久六極磁石(modulating-Permanent Magnet Sextupole, mod-PMSx)」を開発した。

 外輪の回転機構の改良、磁極の渦電流損及び鉄損の低減、回転に必要なトルクを軽減する磁気トルクキャンセラーの導入により、30Hz程度のパルスビームに同期して磁場強度変調を長期的に安定して行うことが可能となった。製作した実機をフランス・グルノーブルのILLの極冷中性子ビームラインにて実証実験を行い、これまで達成されたことのない2倍(λmax/λmin = 2)の波長範囲にわたって集束することに成功、中性子束として対象波長域で43倍と高い集光効率を実証した。さらに中性子小角散乱や拡大イメージングなど応用可能性も実証した。mod-PMSxは比較的安価でビームラインでのアライメントや運転が容易な利便性の高いシステムであるため、広く利用されることが期待される。

問合せ先 佐々木茂美(放射光科学研究センター)